捻挫(ねんざ)

 練習でも試合でもよく遭遇する外傷です。正しい応急処置を覚えましょう。

どんな怪我?

いわゆる「足をひねる」こと、それ自体を「捻挫」と言います。

捻挫はけがのしかた(受傷機転)自体をさすものですが、一般的には外傷そのものの名称として使われていることが多いです。「足をひねって捻挫した」というのは医学的にはあまり正しい言い方とはいえません。また、捻挫と靭帯損傷が混同して使われることが多いですが、靭帯損傷は、捻挫の結果としての病態をさします。つまり、「足を捻挫して靭帯損傷を受傷した」というのが正しい使い方になると思います。

前置きが長くなりましたが、足を内側にひねる(小指側が先に接地dする)捻挫を「内反捻挫」、外側にひねる捻挫を「外反捻挫」と言います。多くの捻挫はこの内反捻挫にあたります。

捻挫をすると、先に着地をしたほうの靭帯が一時的にびよーんとのびた状態になります。この結果、「靭帯損傷」や「骨折」が発生します。靭帯損傷の程度がひどい場合や、骨折の場合、手術が必要になることもあります。

応急処置

 有名なRICE処置の出番です。

 RICE処置とは、Rest(安静),Icing(冷却),Compression(圧迫),Elevation(挙上)の頭文字をそれぞれとったものです。

 簡単に言えば、「休んで」「冷やして」「包帯巻いて」「心臓より高いとこにあげておきましょう」ということです。

 よくスポーツの現場で誤解されているのが、「とにかく、ずーっとキンキンに冷やせ」というところだと思います。

 私の出身大学ハンド部でも全員が医学生であるにも関わらず、間違ったアイシングを行っていました。

 まず、冷却効果が一番強いのは、「氷」です。患部を冷却するのに必要なのは、材料そのものの冷たさ(温度の低さ)ではなく、物質が持つ「融解熱」です。この融解熱が一番高いものが0°の氷です。やみくもにとにかく冷たいものをあてると、皮膚が凍傷になってしまいます。その場合、なにが問題になるかというと、整形外科的な手術をするにあたって重要なもののひとつに皮膚の状態があげられます。状態の悪い皮膚には手術が行えません。これは、骨折や靭帯は治っても皮膚がくっつかなかった!感染してしまった!という自体が想定されてしまうからです。 よって、患部は必ず、氷or氷+水で冷やしましょう。

 次に、アイシングの時間です。これに関しても同様で、長時間のアイシングが凍傷の原因になります。

 アイシングはまず、20〜30分。その後40分アイシングを休んで、再びアイシングを再開。だいたい1時間サイクルになるようにアイシングの繰り返しを行います。なるべく早期の医師の診断が必要ですが、休日などの都合で医療機関の受診が難しい場合、24〜72時間、これを続けましょう。また、アイシングを休んでいる間もその他の、安静・圧迫・挙上は継続してください。

 僕がおすすめする方法は、まず包帯や長めの靴下で皮膚を守る。その上に氷嚢やビニール袋にいれた氷をはれてきそうなところにあてて、その上から包帯を少しきつめに巻く。強く巻きすぎるのも疎血状態になるので避けましょう。

診断と治療

 なるべく早めに医療機関を受診しましょう。

 その際には、どんな練習をしていて、どのように足をひねったか具体的に伝えましょう。また、自分の競技レベル(プロ、アマチュア全国レベル、地区大会レベル、趣味程度)なのかも、治療方針に関わってくるので、(聞かれるとは思いますが、聞かれなかったら)伝えるといいと思います。

 ざっくりと言ってしまうと、受傷直後にも病院についたときにも、痛いけどなんとか歩ける、という場合は、骨折していない可能性のほうが高いです。逆に言うと、歩けない場合は骨折している可能性がかなり高いと言えます。

 靭帯が痛んでいる、きれている、完全に切れている、などの靭帯損傷の程度については、痛みがひいた時点で身体診察で推測するか、受傷直後であればMRIなどの精密検査をするかでしかわからないことがほとんどです。

 MRIの適応については主治医側の判断によるところが大きいと思います。

 ひどい靭帯損傷やずれが大きい骨折では手術が必要になる場合があります。

 つまり、「たかが捻挫、されど捻挫」 捻挫も侮ってはいけないということです。

 特に、捻挫は「くせになる」ことが知られています。これは足そのものに存在するセンサー(自由神経終末)が初回の捻挫時に損傷を受けるから、と考えられています。一度痛んだセンサーはなかなか回復しません。捻挫はしっかり治してから競技に復帰することが大事だと言えます。

 また捻挫の予防に、テーピングやサポーターの使用が広く用いられていますが、これに関しても、適当にフィーリングや見た目で選択しているプレーヤーが多いと思います。とくにいつまでたっても硬く頑丈なサポーターを使っている選手がたまにいますが、あれは間違いだと思います。硬めのサポーターは受傷直後や手術後に使い、慣れてきたら回復してきたセンサーに適度な刺激を与えるために(医学的に言えば神経運動器系を刺激し、proprioceptionを向上させるために)支柱のない柔らかいタイプのサポーターに変えた方が、捻挫の再発予防になるというのが最近の考え方です。

 ただし、この辺りは、主治医により考え方がまちまちなので、よく相談してみてください。

 また、重症な捻挫では治療後に、筋肉と骨格のバランス(アライメント)が悪くなることが少なからずあります。

 きちんとしたリハビリテーションを受けることも重要です。

参考文献:「復帰をめざすスポーツ整形外科 MEDICAL VIEW社」「MB Orthopedics vol.23 No.5」